
バス停を降りると小さな公園があった。盆踊りのやぐらが組まれ、提灯が風に揺れている。スイカを食べ、帰りにおやつをもらった子供の頃を思い出す。近頃はこうした風情ある光景も少なくなってきたように思う。
ふと、ギターの音が聞こえてきた。振り返るとベンチにひとり外国人男性の姿があり、リゾートチックなハワイアンの曲を弾いている。このあたりに暮らしているのだろうか。
盆踊り会場でハワイアンとはユニークな組み合わせだが、これがまた意外に悪くない。なかなか心地よいシーンだった。
住宅街をしばらく歩き、大通り沿いに今夜の宿があった。聞いてはいたが、これを宿だと思う人はいないだろう。多少の不安を覚えながらドアを開けると、予想だにしない色鮮やかな空間が。ビビッドな色味のバランスがよく、飾られているこけしや八幡馬、津軽塗など青森の工芸品も場違いさがない。むしろ単体で見るより随分と洒落て見える。そして、奈良美智のポスターが魅力的なアクセントだ。なんとも気分が明るくなる部屋だな、と思いながら、子供なら真っ先に飛び込むであろう黄色いボックス型のソファーに寝そべった。

しばしの休憩をはさみ温泉へ。宿のそばに天然温泉があるのはありがたい。下駄箱で靴を脱ぎ館内に入ると、夏休みとあってか子供たちの姿も多い。
髪と身体を洗って、外の露天風呂にゆったり浸かる。離れ的な桧葉風呂や壺湯があり、内湯も広々としていて申し分がない。駐車場がいっぱいなのも納得だ。
風呂を出て食事処で生ビールを注文。風呂上がりのビールはつくづく美味い。雪の季節もいいだろうな、と思いながら2杯目を飲み干し、温泉を後にした。
買い出しがてら近くを散策。温泉裏手を歩いていくと大きな公園が見えてきた。正面には夏雲をまとい、ゆるやかな稜線を描いた青い山影が。愛犬と散歩をする人、キャッチボールを楽しむ人、子供たちの元気な声も響く。ベンチに腰掛けて景色を眺めた。時間がゆったりと流れている。

「夕食は何にしようか」と思案する。公園までの道すがらにあった寿司屋か。宿の通り沿いにあったとんかつ屋も地元で人気らしい。スーパーで何か買って、あの部屋でのんびり過ごすのもいい。街の暮らしに溶け込む時間は、旅の記憶に彩りを与えてくれる。
この夜、私はBROOMEの最初の宿泊客として眠りについた。